この記事は、このようなことを考えている方々にとって、有益となる情報を提供できればと考えています!
ここでは、ユニクロのセルフレジと関係する特許が無効と判断された特許無効審判事件(無効2019-800041)を分析をして、今般の判決で、該当する特許権が、どういった理由で無効から有効に転じたのか考えてみたいと思います。
ここの意見は、競馬の予想のようなものだと思っていただければ幸いですww
(大きく外れる可能性があること、予めご承知おきください。)
皆様の頭の体操がてらにでも、お読みいただければ嬉しい限りです!
それでは、早速、分析をしていきます!
目次
結論
結論から先に言いますと、私は、審決を分析をしていて、以下のように感じました。
- 本件発明の明細書の記載を考慮すれば、「筐体」だけでなく「シールド部」も、底板を備えているものと理解することができるのではないか?(「シールド部」の形状について、審決で言及されていない理由が不明。)
- 本件発明1と甲1発明2との対比において、相違点(「シールド部」の形状)が看過されているのではないか?
- 甲1発明2の重量計の「プレート」に、シールドとしての機能を持たせるようにする積極的な動機はないのではないか。
以下、そのように思った理由をご説明いたします!
特許無効審判事件の経緯(概要)
審決の分析をする前に、状況を整理します。
審決に至るまでの簡単な経緯は以下の通りです。
請求人:株式会社 ファーストリテイリング
被請求人:株式会社 アスタリスク
平成31年1月25日 | 特許権の設定登録(特許6469758号) |
---|---|
令和1年 5月22日 | 審判請求書 |
令和2年 1月14日 | 訂正請求書 ※請求項1の記載を訂正。 |
令和2年 8月13日 | 審決(無効2019-800041) ← 今回分析するもの ※請求項1、2、4が無効。請求項3が有効。 |
令和3年 5月20日 | 判決 ※請求項1、2、4の無効を取り消し。請求項1~4が有効。 |
審決の概要(分析するポイントの整理)
この審決は、全部で76頁くらいあります・・・
そのため、ポイントを絞って分析するために、審決の内容を整理したいと思います。
まず、審決の結論ですが、以下の記載があります。
結 論
特許第6469758号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。
特許第6469758号の請求項1、2及び4に係る発明についての特許を無効とする。
特許第6469758号の請求項3に係る発明についての審判請求は、成り立たない。
そして、審決の結びを見ると、以下の記載があります。
第8 むすび
以上のとおりであるから、訂正は認容する。
本件発明1、2及び4についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効理由1-2によって無効とすべきである。
また、本件発明3についての特許は、請求人の主張する無効理由及び提出した証拠方法ないし当審が通知した無効理由によっては、無効とすることはできない。
これらの記載を踏まえて、この記事では、審決のうち、訂正後の請求項、及び、無効理由1-2を整理いたします。
また、訂正後の請求項は1~4までありますが、全て請求項1にぶら下がっていますので、この記事では、請求項1のみを取り扱います。
なお、請求人は、無効理由1を含め、以下の主張をしています。
- 無効理由1(新規性・進歩性:甲第1号証)
- 無効理由2(進歩性:甲第2号証)
- 無効理由3(明確性要件違反)
無効理由1-2の概要
ここでは、無効理由1-2の内容を整理していきます。
無効理由1-2に関して、審決には以下の記載があります。
ウ 本件発明1についての判断のまとめ
上記ア、イのとおり、本件発明1は、甲1発明2であるか、甲1発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
この記載を踏まえて、この記事では、訂正後の請求項1、甲1発明2、及び、無効理由1-2に関する特許庁の判断を整理した後に、その判断内容を分析していきます。
- この記事では、訂正後の請求項1、甲1発明2、及び、無効理由1-2に関する特許庁の判断を整理した後に、その判断内容を分析。
本願発明1(訂正後の請求項1)の確認
ここでは、訂正後の請求項1の内容を、簡単に確認いたします。
訂正後の請求項1は、以下の通りです。
(下線部分は訂正箇所、赤字部分は私が追記した箇所になります。)
(【5/22追記】黄色ハイライト部分は相違点1-1に関係する構成、緑色ハイライト部分は相違点1-2に関係する構成、ピンク色ハイライト部分は「私が気になる構成」を示しています。)
【請求項1】
物品に付されたRFタグ(12)から情報を読み取る据置式の読取装置(20)であって、
前記RFタグと交信するための電波を放射するアンテナ(60)と、
上向きに開口した筺体(24)内に設けられ、前記アンテナを収容し、前記物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部(44)と、
を備え、
前記筺体および前記シールド部が上向きに開口した状態で、前記RFタグから情報を読み取ることを特徴とする読取装置。
【出典】図3
もし、「もう少し本願発明1の説明が欲しい!」という方がいらっしゃいましたら、以下の、オモチ様の記事を是非ご覧になってください!
とても分かりやすく、技術の説明をしてくださっています!
106_ユニクロのセルフレジ 特許侵害訴訟(追記&修正あり)
甲1発明2の確認
ここでは、「甲1発明2」の内容を、簡単に確認いたします。
「甲1発明2」とは、審決において引用された甲第1号証に記載された発明のひとつで、審判官が認定したものになります。
甲第1号証は、米国特許第9245162号明細書であり、
「甲1発明2」の内容は、以下の通りです。
(【5/22追記】黄色ハイライト部分は相違点1-1に関係する構成、緑色ハイライト部分は相違点1-2に関係する構成、ピンク色ハイライト部分は「私が気になる構成」を示しています。)
[甲1発明2]
「読取り/書込みモジュール200であって、
その頂部に、RFIDタグを保持している対象物を載置キャビティ202に入れることを可能にする挿入アパーチャ106を備え、
載置キャビティ202は4つの垂直側壁204~210によって区切られ、各垂直側壁204~210は金属で作られ、
各垂直側壁204~210はアンテナも備え、これらのアンテナは、データをRFIDタグから読み取ることが可能な読取り手段に接続され、
4つの垂直側壁204~210および載置キャビティ202を取り囲む外側壁212を備え、
外壁212と4つの垂直側壁204~210との間に配置され、RFIDタグの読取り/書込みに使用される電波を吸収するために設けられる、吸収性発泡体214を備え、
重量計も備え、そのプレートは載置キャビティ202の底壁を形成する、
読取り/書込みモジュール200。」
無効理由1-2に関する特許庁の判断の確認
ここでは、「無効理由1-2に関する特許庁の判断」の内容を確認いたします。
その内容は、以下の通りです。
進歩性については、特に他の文献を組み合わせることなく否定しています。
(【5/22追記】黄色ハイライト部分は相違点1-1に関係する構成、緑色ハイライト部分は相違点1-2に関係する構成、ピンク色ハイライト部分は「私が気になる構成」を示しています。)
2-2 無効理由1-2(新規性、進歩性:甲1発明2)について
(1)本件発明1について
(1-1)対比
・・・
以上から、本件発明1と甲1発明2とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点で一応相違する。
<一致点1(1-2)>
「物品に付されたRFタグから情報を読み取る読取部分であって、
前記RFタグと交信するための電波を放射するアンテナと、
上向きに開口した囲い内に設けられ、前記アンテナを収容し、前記物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部と、
前記囲いおよび前記シールド部が上向きに開口した状態で、前記RFタグから情報を読み取る読取部分。」
<相違点1-1(1-2)>
「読取部分」が、本件発明1は、「据置式の」読取「装置」であるのに対して、甲1発明2は、「読取り/書込みモジュール200」である点。
<相違点1-2(1-2)>
「囲い」が、本件発明1は、「筐体」であるのに対して、甲1発明2は、「4つの垂直側壁204~210および載置キャビティ202を取り囲む外側壁212」である点。(1-2)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1-1(1-2)について
(ア)
甲1発明2の「読取り/書込みモジュール200」は、「アンテナ」及び「読取り手段」を備え、それ自体で「読取り」ができるから、また、「金属で作られ」た「各垂直側壁204~210」を備えることで、液体を含有する対象物に貼付されたタグを読み取るのに、特に有用である(摘記(1e)参照。)という、独自の作用効果を奏するといえるから(甲1の「背景」に関する記載も参照。)、読取装置の態様となっているといえる。
そして、[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]によると、「据え置く」は、「すえておく。備えつけておく。そのままにして手をつけずにおく。『定価を―・く』」ことを意味し、「備え付ける」は、「ある場所に置いて使えるようにしておく。設けておく。『教室にテレビを―・ける』」ことを意味していること、及び、甲1の記載からみて、甲1発明2の「読取り/書込みモジュール200」は、ハウジング内に挿入された状態などで、すなわち、ハウジング内に据え置いた状態などで、使用することが想定されており(摘記(1f)及び(1l)参照。)、甲1発明2の「読取り/書込みモジュール200」を、移動させながら使用することは想定されていないから、甲1発明2の「読取り/書込みモジュール200」は、据置式の装置となっていることが、明らかである。
また、同様に、甲1発明2の「読取り/書込みモジュール200」は、別の装置に組み込まれたり単体で使用したりする場合も((摘記(1f)の「取り外すことができる」も参照。)、据置式の装置となることが、明らかである。
したがって、相違点1-1(1-2)は実質的な相違点とはいえない。
(イ)
仮に、相違点1-1(1-2)が実質的な相違点であったとしても、甲1発明2の「読取り/書込みモジュール200」を、単体などで使用し据置式とすることで、甲1発明2において、上記相違点1-1(1-2)に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が適宜なし得たことにすぎない。イ 相違点1-2(1-2)について
(ア)
本件発明1の「筐体」は、「機器をおさめているはこ[株式会社岩波書店広辞苑第六版]」を意味していると理解することもでき、甲1発明2の「4つの垂直側壁204~210および載置キャビティ202を取り囲む外側壁212」は、「アンテナ」などの機器を収容しているから(上記(1-1)オ(ア)及び(エ)))、機器をおさめるものであり、筐体「機器をおさめているはこ[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]」の態様となっているといえる。
したがって、相違点1-2(1-2)は実質的な相違点とはいえない。
(イ)
一方、本件明細書の段落【0018】には、「当該4つの壁板28(図1)および底板26によって、上向きに開口した方形の筐体24が形成されている。」と記載されていることから、本件発明1の「上向きに開口した筐体」は、側壁と底板を備えているものと理解することもでき、甲1発明2は、この底板が特定されていないから、相違点1-2(1-2)は実質的な相違点であるともいえる。
しかしながら、相違点1-2(1-2)が実質的な相違点であったとしても、甲1発明2の「4つの垂直側壁204~210および載置キャビティ202を取り囲む外側壁212」を、底板を備える筐体の態様として構成することは、以下のとおり、当業者が容易になし得たといえる。
甲1発明2の「読取り/書込みモジュール200」は、「重量計も備え、そのプレートは載置キャビティ202の底壁を形成する」ことから、「そのプレート」すなわち重量計の「プレート」が「載置キャビティ202の底壁」となり、「載置キャビティ202」よりも下方に、「重量計」が位置していることは明らかであり、その「重量計」は、何らかの手段によって「読取り/書込みモジュール200」に固定する必要があるといえる。
そして、この「重量計」の部分に埃や塵などの異物が入らないように、甲1発明2の「読取り/書込みモジュール200」の底を、底板などによって塞ぎ、その底板の上に「重量計」を設置して固定することは、当業者が通常想定し得るといえる(例えば、上記の底板で塞いだ「読取り/書込みモジュール200」を、引き出しまたは棚に載置して使用することも想定し得るから、上記アと矛盾することもない。)。
したがって、甲1発明2の「読取り/書込みモジュール200」に底板を設け、「4つの垂直側壁204~210および載置キャビティ202を取り囲む外側壁212」とこの底板とを併せて筐体とし、上記相違点1-2(1-2)に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たといえる 。ウ 本件発明1についての判断のまとめ
上記ア、イのとおり、本件発明1は、甲1発明2であるか、甲1発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
それではここから、審決を分析していきます!
ステップ1:甲1発明2の認定の分析
ここでは、以下の甲1発明2の認定が正しいかどうか分析していきます。
この認定で、特に違和感があるところはないため、認定は正しいものとして進めていきたいと思います。
[甲1発明2]
「読取り/書込みモジュール200であって、
その頂部に、RFIDタグを保持している対象物を載置キャビティ202に入れることを可能にする挿入アパーチャ106を備え、
載置キャビティ202は4つの垂直側壁204~210によって区切られ、各垂直側壁204~210は金属で作られ、
各垂直側壁204~210はアンテナも備え、これらのアンテナは、データをRFIDタグから読み取ることが可能な読取り手段に接続され、
4つの垂直側壁204~210および載置キャビティ202を取り囲む外側壁212を備え、
外壁212と4つの垂直側壁204~210との間に配置され、RFIDタグの読取り/書込みに使用される電波を吸収するために設けられる、吸収性発泡体214を備え、
重量計も備え、そのプレートは載置キャビティ202の底壁を形成する、
読取り/書込みモジュール200。」
ステップ2:一致点・相違点の認定の分析
審決において、一致点・相違点は、以下のように認定されています。
<一致点1(1-2)>
「物品に付されたRFタグから情報を読み取る読取部分であって、
前記RFタグと交信するための電波を放射するアンテナと、
上向きに開口した囲い内に設けられ、前記アンテナを収容し、前記物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部と、
前記囲いおよび前記シールド部が上向きに開口した状態で、前記RFタグから情報を読み取る読取部分。」
<相違点1-1(1-2)>
「読取部分」が、本件発明1は、「据置式の」読取「装置」であるのに対して、甲1発明2は、「読取り/書込みモジュール200」である点。
<相違点1-2(1-2)>
「囲い」が、本件発明1は、「筐体」であるのに対して、甲1発明2は、「4つの垂直側壁204~210および載置キャビティ202を取り囲む外側壁212」である点。
提示された一致点、相違点の認定自体は、正しいような印象を受けていますが、
シールド部の構成について、相違点に挙がっていないことが気になっています。
気になる理由は、主に以下の通りです。
- 「囲い」については、その形状が相違点として議論されているのに、「シールド部」については、その形状は議論されていない。
- 「囲い」については、請求項1に「筐体」という形状に関する記載があるから(「筐体」の形状が文言から不明確だから)、その形状について争点になっていると解されるが、「シールド部」についても、請求項1に「前記物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成された」という形状に関する記載があることから(物品をどのように囲んでいるのかは不明確だから)、その形状が争点になってしかるべき。
- 仮に、「シールド部」が、明細書(例えば図3等)を参酌して、底面も備えるものだと認定した場合には、それは、底面が「プレート」としか限定されていない甲1発明2と対比して、相違点となり得る。(もちろん、「底面があってもなくても良いので相違点ではない」という判断もあり得ます。)
(「青字」部分は、2021/5/22追記箇所。)
なので、ここでは、相違点が看過されている可能性がある旨整理しておきたいと思います。
- 審決において、「シールド部」の形状に関して、相違点が看過されている可能性がある。
ステップ3:「相違点の判断」について分析
ステップ3-1:「相違点1-1の判断」について分析
審決において、相違点1-1は、以下のように判断されています。
(ア)
甲1発明2の「読取り/書込みモジュール200」は、「アンテナ」及び「読取り手段」を備え、それ自体で「読取り」ができるから、また、「金属で作られ」た「各垂直側壁204~210」を備えることで、液体を含有する対象物に貼付されたタグを読み取るのに、特に有用である(摘記(1e)参照。)という、独自の作用効果を奏するといえるから(甲1の「背景」に関する記載も参照。)、読取装置の態様となっているといえる。
そして、[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]によると、「据え置く」は、「すえておく。備えつけておく。そのままにして手をつけずにおく。『定価を―・く』」ことを意味し、「備え付ける」は、「ある場所に置いて使えるようにしておく。設けておく。『教室にテレビを―・ける』」ことを意味していること、及び、甲1の記載からみて、甲1発明2の「読取り/書込みモジュール200」は、ハウジング内に挿入された状態などで、すなわち、ハウジング内に据え置いた状態などで、使用することが想定されており(摘記(1f)及び(1l)参照。)、甲1発明2の「読取り/書込みモジュール200」を、移動させながら使用することは想定されていないから、甲1発明2の「読取り/書込みモジュール200」は、据置式の装置となっていることが、明らかである。
また、同様に、甲1発明2の「読取り/書込みモジュール200」は、別の装置に組み込まれたり単体で使用したりする場合も((摘記(1f)の「取り外すことができる」も参照。)、据置式の装置となることが、明らかである。
したがって、相違点1-1(1-2)は実質的な相違点とはいえない。
(イ)
仮に、相違点1-1(1-2)が実質的な相違点であったとしても、甲1発明2の「読取り/書込みモジュール200」を、単体などで使用し据置式とすることで、甲1発明2において、上記相違点1-1(1-2)に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が適宜なし得たことにすぎない。
私も、この判断で良いという印象を受けています。
相違点1ー1に係る構成は、甲1発明2に記載されているに等しいと思いますし、仮に記載されていないとしても、ユーザーの利便性等の一般的な課題を考慮して、据置式とすることに格別な困難性はないものと思います(設計変更(iv))。
(1) 設計変更等
請求項に係る発明と主引用発明との相違点について、以下の(i)から(iv)までのいずれか(以下この章において「設計変更等」という。)により、主引用発明から出発して当業者がその相違点に対応する発明特定事項に到達し得ることは、進歩性が否定される方向に働く要素となる。さらに、主引用発明の内容中に、設計変更等についての示唆があることは、進歩性が否定される方向に働く有力な事情となる。
(i) 一定の課題を解決するための公知材料の中からの最適材料の選択(例1)
(ii) 一定の課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化(例2)
(iii) 一定の課題を解決するための均等物による置換(例3)
(iv) 一定の課題を解決するための技術の具体的適用に伴う設計変更や設計的事項の採用(例4及び例5)
これらは、いずれも当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないからである。
ステップ3-2:「相違点1-2の判断」について分析
審決において、相違点1-2は、以下のように判断されています。
(ア)
本件発明1の「筐体」は、「機器をおさめているはこ[株式会社岩波書店広辞苑第六版]」を意味していると理解することもでき、甲1発明2の「4つの垂直側壁204~210および載置キャビティ202を取り囲む外側壁212」は、「アンテナ」などの機器を収容しているから(上記(1-1)オ(ア)及び(エ)))、機器をおさめるものであり、筐体「機器をおさめているはこ[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]」の態様となっているといえる。
したがって、相違点1-2(1-2)は実質的な相違点とはいえない。
(イ)
一方、本件明細書の段落【0018】には、「当該4つの壁板28(図1)および底板26によって、上向きに開口した方形の筐体24が形成されている。」と記載されていることから、本件発明1の「上向きに開口した筐体」は、側壁と底板を備えているものと理解することもでき、甲1発明2は、この底板が特定されていないから、相違点1-2(1-2)は実質的な相違点であるともいえる。
しかしながら、相違点1-2(1-2)が実質的な相違点であったとしても、甲1発明2の「4つの垂直側壁204~210および載置キャビティ202を取り囲む外側壁212」を、底板を備える筐体の態様として構成することは、以下のとおり、当業者が容易になし得たといえる。
甲1発明2の「読取り/書込みモジュール200」は、「重量計も備え、そのプレートは載置キャビティ202の底壁を形成する」ことから、「そのプレート」すなわち重量計の「プレート」が「載置キャビティ202の底壁」となり、「載置キャビティ202」よりも下方に、「重量計」が位置していることは明らかであり、その「重量計」は、何らかの手段によって「読取り/書込みモジュール200」に固定する必要があるといえる。
そして、この「重量計」の部分に埃や塵などの異物が入らないように、甲1発明2の「読取り/書込みモジュール200」の底を、底板などによって塞ぎ、その底板の上に「重量計」を設置して固定することは、当業者が通常想定し得るといえる(例えば、上記の底板で塞いだ「読取り/書込みモジュール200」を、引き出しまたは棚に載置して使用することも想定し得るから、上記アと矛盾することもない。)。
したがって、甲1発明2の「読取り/書込みモジュール200」に底板を設け、「4つの垂直側壁204~210および載置キャビティ202を取り囲む外側壁212」とこの底板とを併せて筐体とし、上記相違点1-2(1-2)に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たといえる 。
私も、この判断で良いという印象を受けています。
「筐体」の意味を、辞書から汲み取って判断していることも、明細書の内容を参酌して形状を特定した上で、進歩性を否定しているのも、特に問題はないように思います。
(若干、「この「重量計」の部分に埃や塵などの異物が入らないように、甲1発明2の「読取り/書込みモジュール200」の底を、底板などによって塞ぎ、その底板の上に「重量計」を設置して固定することは、当業者が通常想定し得るといえる」という判断に違和感を覚えますが・・・。ここまで言い切る場合には、証拠を示してほしいなとは思います。)
審査官は、請求項に係る発明の認定を、請求項の記載に基づいて行う。この認定において、審査官は、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮して請求項に記載されている用語の意義を解釈する。
また、審査官は、この認定に当たっては、本願の明細書、特許請求の範囲及び図面を精読し、請求項に係る発明の技術内容を十分に理解する。
明細書、特許請求の範囲又は図面(以下この部において「明細書等」という。)について補正がされている場合は、審査官は、補正の内容についても、十分に理解する。
ただ、ここで一番気になったことは、「筐体」の形状については、明細書を参酌しているということです。
「ステップ2:一致点・相違点の認定の分析」において言及しましたが、仮に、「シールド部」が、明細書(例えば図3等)を参酌して、底面も備えるものだと認定した場合には、それは、底面が「プレート」としか限定されていない甲1発明2と対比して、相違点となり得ます。
仮に、相違点として認定されていたとしても、最終的には、進歩性が否定される可能性はありますが、
「筐体」に関しては明細書を参酌して、「シールド部」に関しては明細書を参酌しないことに、合理的な理由はないように思います。
なので、審決においては、この相違点が看過されているものと思います。
そして、この相違点を埋めるには、甲1発明2の重量計の「プレート」に、シールドとしての機能を持たせないといけなくなりますが、個人的には、甲1発明2において、そのようにする積極的な動機はないように思います。(少なくとも、何かしらの証拠を提示する必要があるように思います。技術常識でしたらすみません・・・)
- 「相違点1-2」の判断内容を踏まえると、審決において、「シールド部」の形状に関して、相違点が看過されているといえるのではないか。
- 甲1発明2の重量計の「プレート」に、シールドとしての機能を持たせるようにする積極的な動機はないのではないか。
まとめ
まとめになりますが、私は、審決を分析をしていて、以下のように感じました。
- 本件発明の明細書の記載を考慮すれば、「筐体」だけでなく「シールド部」も、底板を備えているものと理解することができるのではないか?(「シールド部」の形状について、審決で言及されていない理由が不明。)
- 本件発明1と甲1発明2との対比において、相違点(「シールド部」の形状)が看過されているのではないか?
- 甲1発明2の重量計の「プレート」に、シールドとしての機能を持たせるようにする積極的な動機はないのではないか。
このような理由から、今般の判決において、審決が取り消されたものと予想して、
実際にどうだったのかを、楽しみに待ちたいと思いますww
最後に
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ご連絡いただければ幸いでございます。
可能な範囲で対応させていただきます!